当館は、2016年より「アール・ブリュット(art brut)」と呼ばれる作品群の収集をしています。「生(なま)の芸術」とも訳しうる「アール・ブリュット」についての厳密な定義は難しいのですが、芸術の教育を受けていない人たちによって制作された独自の表現を指す概念として、1940年代にフランスの画家、ジャン・デュビュッフェが提唱しました。ちなみにフランス語では語末の子音は発音しないことが多いのですが、brutの場合は「ブリュット」と発音するようです。
ここ滋賀県では、糸賀一雄、池田太郎、田村一二らにより、1946年に障害のある児童等の入所・教育・医療施設「近江学園」が大津市南郷に創設され、その土地の良質な粘土を素材とした造形活動が始まりました。その後、落穂寮、信楽寮、一麦寮など、県内の多くの福祉施設で、主に知的障害のある人たちによる造形活動が活発に展開され、今に至っています。
こうした福祉施設での造形活動で生まれた作品は、さまざまな展覧会を通して紹介されてきましたので、どこかでご覧になっている方も多いことでしょう。また、2010年にパリのアル・サン・ピエール美術館で開かれた「アール・ブリュット・ジャポネ」展によって海外にも広く知られるようになりました。滋賀県在住の澤田真一の作品が2013年のヴェネツィア・ビエンナーレで展示されたのも、記憶に新しいところです。
滋賀県にある美術館として、当館ではこれまで、2008年に「アール・ブリュット —パリ、abcdコレクションより—」展を、2015年に「生命の徴 滋賀とアール・ブリュット」展を開催してきました。そして2016年、「アール・ブリュット作品収集方針」を定めてコレクションの形成を始め、2020年には近江八幡市のかわらミュージアムで、新収蔵品による企画展として、「土から生まれた」展を開催しています。2021年現在、アール・ブリュットのコレクションは、県内および国内作家の絵画・陶芸作品を中心に155点となっています。