はじめまして。保坂健二朗と申します。滋賀県立近代美術館のディレクター(館長)に2021年1月1日付で着任しました。

まず美術館の自己紹介から。
私たち滋賀県立近代美術館は、1984年に、滋賀県の瀬田丘陵というところに開館しました。琵琶湖線の(新快速は停まらない)瀬田駅というところからバスに乗って10分前後、文化ゾーンというバス停からさらに10分弱歩いたところにあります。つまり、公共交通機関を使っての便は正直あまりよくありません。瀬田東ICや草津田上ICがすごく近いので車でアクセスするには便利なのですが、環境対策を重視しなければならない公的機関の立場からすると、自家用車による来館を推奨しづらいのが難しいところです。
作品の収蔵点数は2020年3月現在で1,786件。県立の美術館としては比較的小さい規模です。でも、日本画家の小倉遊亀や染織家の志村ふくみのコレクションは国内随一を誇っています。マーク・ロスコやロバート・ラウシェンバーグなど、いわゆる戦後アメリカ美術を代表するアーティストの良作を収蔵していることでも知られていますし、2016年からは澤田真一などアール・ブリュットの作品の収集もスタートさせました。教育普及活動でも、1980年代から実施しているワークショップやアートゲームを用いた鑑賞教育などの先進的な取り組みは、全国に誇れるものです。

そんな滋賀県立近代美術館は、「新生美術館」となることをめざして2017年4月1日より休館していました。増改築工事の設計者には、いわゆるプロポーザルによってSANAAが選ばれて、実施設計まで終わっていました。しかし2017年8月、建築工事の入札が不落となり、その後もろもろの検討を経て、2018年8月、新生美術館の計画については「一旦、立ち止まる」ことが表明されました。現在、新生美術館の計画の扱いも含めて、今後の滋賀の美の魅力の発信のあり方全体について県庁を中心に検討が進められており、今年度中には方針がまとまる予定です。その詳細についてご興味のある方は、以下をご参照ください。
https://www.pref.shiga.lg.jp

新生美術館となることを一旦立ち止まることにしたのであれば、貴重な作品を収集・保管する公立の美術館としては、すぐにでも展示の機能を再開する必要があったかもしれません。けれど、1984年の開館から30年以上経った建物は老朽化が進んでいました。21世紀の美術館に求められている機能もほとんどありませんでした。そこでもう少しだけ休館期間を延長させていただき、照明や消火設備のアップデートをし、キッズスペースや授乳室やカフェスペースなどを新設することにしました。増改築工事ではなく、(見た目は)ささやかなリノベーションといったところでしょうか。
同業者にはよく聞かれることなのでこの場を借りて正直に申し上げますと、今回のリニューアルオープンに向けての設計にSANAAは関わっていません。基本的には美術館のスタッフが設計や建設会社の皆さんと協働して仕様を決めていきました。また、すでに述べたキッズスペースやカフェスペースなど、エントランスロビーまわりのデザインは、什器を含めて、大阪を拠点にするgrafがデザインしてくれています。ベンチは、ロビーだけでなくて回廊や展示室にも置かれていくことになるので、以前よりもずっと居心地のよい美術館になるはずです。

美術館は刺激を与えてくれる場所であるとよく言われます。もちろん、次の新しいクリエイションへとつながるような刺激を来た人に与えることも大事でしょう。ただ、ここ滋賀の美術館は、コレクションの内容からしても立地からしても、とんがった刺激よりは、ほっとしていただけるようなやわらかな刺激を与える場所を目指すべきだと思っていますし、特にこのコロナ禍においては、そうした役割もまた美術館に求められているものではないかと考えています。

次に自分自身の自己紹介をと思いましたが、就任のあいさつとしてはもうすでに長くなってしまったのでひとつだけ。自分は「館長」ではなく、ディレクション(方向)を決める「ディレクター」という役割を任せていただいたと思っています。そして、方向を見定めるにはたくさんの情報が必要です。ぜひみなさん、「滋賀にはこんな面白いものがある」「滋賀ではこんなことをやってほしい」といった「情報」をお寄せください。

着任してまだ日が浅いですが、目下、館のスタッフや三日月知事、県議会の議員さん(つまり県民の代表者)、県庁の人たちと相談しながらいろんなことを計画しています。早く皆様に向けてその内容を発表したい気持ちでいっぱいですが、もう少しお待ちいただければ幸いです。そして、滋賀の美術館のこれからに、どうぞご期待ください!

2021(令和3)年1月
滋賀県立近代美術館 ディレクター(館長)
保坂健二朗

保坂健二朗
撮影:木奥恵三
滋賀県立美術館ディレクター(館長)

保坂健二朗

1976年茨城県生まれ。2000年慶應義塾大学大学院修士課程修了。2000年から2020年まで東京国立近代美術館に勤務。同館にて企画した主な展覧会に「エモーショナル・ドローイング」(2008)、「フランシス・ベーコン展」(2013)、「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」(2016)、「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」(2017)、「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」(2021)など。「Logical Emotion:Contemporary Art from Japan」(2014、ハウス・コンストルクティヴ美術館他)など国外での企画も行う。2021年より現職。主な著作に『アール・ブリュットアート 日本』(監修、平凡社、2013)など。『すばる』の連載など、芸術についての寄稿多数。

1976年茨城県生まれ。2000年慶應義塾大学大学院修士課程修了。2000年から2020年まで東京国立近代美術館に勤務。同館にて企画した主な展覧会に「エモーショナル・ドローイング」(2008)、「フランシス・ベーコン展」(2013)、「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」(2016)、「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」(2017)、「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」(2021)など。「Logical Emotion:Contemporary Art from Japan」(2014、ハウス・コンストルクティヴ美術館他)など国外での企画も行う。2021年より現職。主な著作に『アール・ブリュットアート 日本』(監修、平凡社、2013)など。『すばる』の連載など、芸術についての寄稿多数。

開館にむけて

かわる かかわるミュージアム

ますます変動していく社会に対して、柔軟にかわりながらかかわり続ける美術館の姿を実感していただき、来館者も能動的にかかわり始め、美術館と来館者の間のコミュニケーションが変わっていくことを目指します。

滋賀県立美術館PV

美術館のリニューアルに際して、新しくなった内装や什器、サイン計画を伝えるためにアニメーション映像を制作しました。

滋賀県美メンバーズ

美術館に何度も足を運び、気軽に楽しんでいただけるよう、お得な年間パス会員制度「滋賀県美メンバーズ」を新たに始めます。

改修工事の概要紹介

安全対策や展示環境、来館者の利便性等の面で、現代の美術館に求められる水準に向上させる必要があることから、それらに対応する施設・設備の改修工事等の整備を行いました。